一般的にシミと言われているものの多くが「老人性色素斑(ろうじんせいしきそはん)」と呼ばれるシミです。
「老人性」という言葉の響きがあまりよろしくないのですが、今回は老人性色素斑についてお伝えします。
目次
老人性色素斑とは
まずは老人性色素斑について知ることから始めましょう。
老人性色素斑の症状

典型的な老人性色素斑
典型的な老人性色素斑は30代~40代以降に顔、手の甲、前腕など日光にあたりやすい場所にできます。
男女問わずできますので、年齢とともに誰でも1個や2個の老人性色素斑はできると言えるでしょう。
60代以降になると日光にあたりにくいお腹や太ももにもできることがあります。
稀ですが、20歳前後でも顔など日光にあたる場所には老人性色素斑ができることがあります。
老人性色素斑が単独でできている場合もありますが、脂漏性角化症という盛り上がったシミが混在している場合も良くあります。
また、顔の場合は特に様々なシミ、そばかす、肝斑、ADMなどが混ざっていることが良くありますので、まずは専門医による診断が大切です。
老人性色素斑の原因
原因は老化と紫外線が主なものです。
特に紫外線の影響は非常に大きいです。
常に紫外線を浴びている顔や手の甲に老人性色素斑ができやすことからも、老人性色素斑ができる原因として紫外線の影響が大きいことが想像できます。
日中ほとんど車に乗っている職業ドライバーの方には、顔の右半分にシミが多いという現象も紫外線を顔の右半分に多く浴びたことによるものと考えると納得がいきます。(右ハンドル車の場合です)
紫外線によって皮膚では以下のような変化がおきます。
①長年の紫外線暴露による細胞の損傷が蓄積する
↓
②メラニン産生の信号が出る
↓
③メラノサイトが活性化し、メラニン色素が過剰に産生される
その他に顕微鏡レベルでは皮膚構造の変化と細胞の異常増殖(表皮突起の延長とメラノサイト、ケラチノサイトの異常増殖)を認めます。
シミは肌の代謝が悪くなって色素がたまっている状態と説明されていることがありますが、老人性色素斑はメラニン色素が集まって茶色くなっているだけではなく、皮膚構造の変化と細胞の増殖を伴っているのです。
すなわち、老人性色素斑は皮膚のできものとして治療法を考える必要があるのです。
クリニック選びのポイント
シミ・老人性色素斑を何とかしたいという時は、シミ治療を行っている医療機関を受診します。
医療機関・クリニックを選ぶ際のポイントがいくつかありますので、お伝えします。
シミの診療に力を入れているか確認
老人性色素斑をはじめとしたシミ治療は、まず診断が大切です。
老人性色素斑、肝斑、ADMなど様々なシミが混在していることも多く、的確に診断をつける必要があります。
診断が間違っていると治療結果も伴いません。
実はシミの診断は意外と難しいのです。
的確に診断をつけられるようになるまでには、十分な知識と臨床経験が必要です。
そして片手間にシミ治療を行っているようでは診断能力は向上しませんので、シミ治療に本気で取り組んでいるか見極めたいところです。
ホームページやブログなどでシミ治療に関する情報を詳しく、丁寧に発信しているクリニックはシミ治療に力を入れている証拠です。
また、国内や海外のレーザー学会に所属している医師もシミ治療に力を入れている可能性が高いので、参考にしてください。
治療機器がそろっていること
老人性色素斑の治療には、Qスイッチレーザーかピコレーザーのどちらかは最低限必要です。
これらのレーザーが無い場合は老人性色素斑を消すことはまず難しいと考えてください。
光治療(フォトフェイシャル、ライムライト、アキュチップ、BBLなど)も悪くはありません。
しかし、レーザー治療を補完する位置づけの治療ですので、老人性色素斑を消すためにはレーザーの存在は欠かせないのです。
シミは皮膚の疾患ですので、皮膚科を受診される方も多いと思いますが、保険診療中心の皮膚科の場合、レーザー機器が揃っていないこともありますので、受診される前に確認することをお勧めします。
治療に関する疑問
ここからはシミ治療にまつわるよくある疑問を中心にいくつか解説します。
エステや薬でシミが消えるか?
老人性色素斑に関してはエステや飲み薬・塗り薬で良くなる確率は低いです。
ましてや消すことはかなり難しいでしょう。
理由は老人性色素斑の原因でもお伝えしましたが、老人性色素斑は組織の構造変化と細胞の増殖を伴う「できもの」の仲間だからです。
エステや薬で良くなる可能性があるのは老人性色素斑のように見える肝斑や炎症による色素沈着です。
費用の目安は?
いくつか治療法がありますが、老人性色素斑治療のゴールドスタンダード・Qスイッチレーザーをとりあげます。
料金体系はいくつかありますが、直径5mm程の老人性色素斑であれば1~2万円前後が相場です。
シミのレーザー治療は自由診療ですので、上記価格より大幅に安いものもあれば高いものもあります。
どちらにしても、治療前に見積もりを出してもらいましょう。
本当にとれるの?
老人性色素斑という診断に間違いがなく、Qスイッチレーザーを適切に照射すれば、とれます。
過去に治療したが取れなかったという経験をお持ちの方もいらっしゃると思いますが、その多くのケースが診断の間違いかQスイッチレーザーを適切に使用していない場合です。
その他に時々あるケースとしては「斑状に出現した肝斑を老人性色素斑と診断された」「レーザー治療と聞いていたが実は光治療であった」等です。
シミはすぐに治療した方が良いか?
シミが出来たからといって、あわてる必要はありません。
実は少し様子を見たほうが良いシミもあります。
正確にはシミではないのですが、ニキビや虫刺されの跡、油がはねた跡にできた茶色い色素沈着です。
炎症や何かしらの皮膚トラブルが起きた後の色素沈着に関しては一時的なものであることがほとんどですので、半年~1年位で自然と改善します。
シミのように見えても上記のような皮膚トラブルから1か月程で出現した色素沈着に関しては様子を見たほうが得策です。
逆に一過性の色素沈着に強いレーザー治療などを行ってしまうといつまでも良くならないばかりか、悪化や色素脱失を招くことにもなりかねません。
そこで今回はシミの代表、老人性色素斑の治療法に関する比較とレーザー治療の経過について写真を交えて解説します。
老人性色素斑の治療法
ここでは老人性色素班の治療として行われている代表的な治療を取り上げてその効果などについてお伝えします。
レーザー治療
Qスイッチレーザー
老人性色素斑の治療といえば昔からQスイッチレーザーでした。
シミ治療として使用されているQスイッチレーザーはルビー、アレキサンドライト、ヤグの3種類があります。
それぞれにシミの取れ方、経過などに少し違いがありますが、通常の老人性色素斑でしたらどのレーザーでも結果に大差はありません。
≪効果≫
老人性色素班に対する治療効果は非常に高いです。
1回の治療で取れることがほとんどです。
ただし、治療後はガーゼやテープ保護が7~10日間ほど必要になることと、レーザー治療から1か月程すると一時的に色素沈着を起こすことがありますので、シミがとれたといえる状態になるまで約半年かかると考えて下さい。
ピコレーザー
もともとタトゥーの治療効果が高いことで注目を集めたレーザーです。
本邦でも2015年前頃から普及し始めました。
上記のQスイッチレーザーは熱の作用でシミを破壊するのですが、ピコレーザーは圧力波でシミを破壊します。
このようにシミに作用する原理が従来のレーザーとは違いますので、より効果が高く、色素沈着などの合併症が少ない治療が可能になるのではないかと期待されています。
実際に海外の学会、論文ではピコレーザーのシミ治療・肌の若返り効果に対する有効性、しかも従来のレーザー治療を上回る結果が数多く発表されてきていますので、今後注目のレーザーです。
当院でもピコレーザーを導入していますので、また追って報告したいと思います。
※ピコレーザーもQスイッチレーザーの範疇に入りますが、ここでは便宜的に分けています
光(IPL)治療
フォトフェイシャル、ライムライトなどが有名ですが、その他にも多くの機種があります。
ダウンタイムがない、シミの他くすみ、赤ら顔、毛穴の引き締めにも効果があると昔から言われていますが、個人的にはその効果がやや誇張され過ぎていると感じている部分はあります。
実際に使用した経験から光治療の効果と問題点を挙げてみます。
≪効果>
そばかすにはよく効きます。
老人性色素斑に関しては表在性の浅いタイプや、高齢者ではよい結果が得られやすいのですが、全く変化が無い場合もよくあります。
毛穴の引き締め効果は写真で分かるような変化を認めることはまずありません。
≪ダウンタイム≫
確かにQスイッチレーザーのようにテープ保護の必要はありませんし、数か月に及ぶ赤み、色素沈着は生じにくいです。
しかし、効果が出る強さで照射すると黒く細かいかさぶたにはなります。
このかさぶたはメイクで完全には隠し切れませんので、本当の意味でダウンタイムがないとは言えません。
≪レーザーのようには消えない≫
そもそも光治療はレーザーのように老人性色素斑を消す治療ではありません。
シミを薄くする治療です。
更に、繰り返せば繰り返すだけ薄くなるかと言えばそういうわけでもありません。
最初の1~3回程はよく反応するのですが、それ以上はなかなか効果が出なくなってきます。
しだいによく消えない消しゴムでシミをゴシゴシしているような感覚を覚えるようになります。
光治療はQスイッチレーザーよりリスクは低いのですが、効果も落ちます。
改善を得られない老人性色素斑もよくあります。
また、ダウンタイムも無いというわけではありません。
ケミカルピーリング
ケミカルピーリングは、薬品で皮膚表面の余分な角質を除去する治療です。
(もっと深くまで行うピーリングもありますが、日本人にはリスクが高いのでほとんど行われていません)
老人性色素斑とはでもお伝えしましたが、老人性色素斑は皮膚のできものと同じですので、シミの細胞を壊す治療が必要になります。
したがって、ケミカルピーリングのようにシミの細胞を壊すことができない治療は効果が一時的、もしくはほとんど期待できないということになります。
外用薬
ハイドロキノンとトレチノインが有名です。
皮膚の状態に合わせながら濃度、使用期間を細かく調整して使用すれば効果は期待できるのですが、そこまで徹底している施設は少数です。
多くの施設が行っているように、薬をただ漫然と塗るだけでは老人性色素班に対する効果はほとんどありません。
また、外用薬で改善しても老人性色素班の深部は残っているため、再発する可能性が高いです。
内服薬
トラネキサム酸やビタミンCの内服が一般的です。
内服薬は肝斑に対しては有効ですが、老人性色素斑をはじめとした他のシミに対してはほとんど効果がありません。
少し色が薄くなることはあるのですが、内服を中止するとまた元にもどります。
このように治療法によって期待できる効果が違います。
老人性色素斑を消すことが治療のゴールと考える方が大半だと思いますので、老人性色素斑に対する治療はレーザー治療が第一選択です。
Qスイッチルビーレーザーの治療経過
ここからはQスイッチルビーレーザーの典型的な治療経過を2例みていきます。
【Case.1】
①治療前

頬の老人性色素斑
上の写真は頬にある典型的な老人性色素斑です。
②レーザー照射
レーザーは「バチン」と輪ゴムで強めに弾かれる様な衝撃があります。
小範囲の治療の場合は氷で冷やしながら照射します。
広範囲の場合はクリームの麻酔を使用することもあります。

レーザー直後
上の写真のようにレーザー直後は少し白く色が変わります。
③レーザー治療翌日

レーザー後のかさぶた
翌日にはシミが黒くなったような「かさぶた」になります。
かさぶたは無理に剥がさないようにそっとしておいて下さい。
④レーザー治療10日後

レーザー後10日
かさぶたが剥がれるとうすピンクもしくは赤い皮膚が現れます。
この時に茶色いシミが残っていなければシミは除去できていると言えます。
⑤1か月後

レーザー後1か月
1か月後はまだレーザーの赤みが残っています。
数か月~半年ほどかけながら徐々になじんできます。
【Case.2】
①治療前

多発する老人性色素斑
顔の多発する色素性母斑です。
目立つシミに対してQスイッチルビーレーザーを照射しました。
②1か月後

レーザー後1か月
前述のCase1と違い、今回は色素沈着が生じました。
ここまでしっかり色素沈着が出ることは少ないのですが、Qスイッチルビーレーザー治療の場合約50%の確率で色素沈着が起こります。
ここで大切なことはあわてずに待つことです。
レーザーでできた色素沈着は必ず消えます。
色素沈着に対して塗り薬を使用する方法もあるのですが、使用方法を間違えるとかえって色素沈着の治りが悪くなりますし、薬を使ったからと言ってそこまで早く色素沈着が消えるわけではないので当院では塗り薬は使用していません。
③治療後6か月

レーザー後6か月
まだ若干赤みと色素沈着がありますが、だいぶきれいになりました。
もう少し時間が経つと更になじみます。
Qスイッチレーザーのリスク
レーザー治療の代表的なリスクについて解説します。
一過性の色素沈着
【Case.2】でお見せしたようにシミがとれた後、2~3週間して色素沈着を生じることがあります。
レーザー照射部位の赤み
シミがあった部分の赤みが数か月以上続くことがあります。
色素脱失
レーザーを当てた部分が周辺の皮膚より白くなり、数か月続くことがあります。
老人性色素斑のレーザー治療にはこのようなリスクが伴います。
しかし、いずれも数か月~1年以内(平均半年ほど)で、ほとんどの場合は自然に解消します。
まとめ
老人性色素斑は顔や手の甲など紫外線の影響を受けやすい場所にできるシミです。
確実に消したい場合は医療機関でQスイッチレーザー治療を受けましょう。
また、紫外線が老人性色素班の主な原因ですので、日ごろの紫外線ケアが長期的には大きな違いを生みます。