今回はFTMの乳房切除術の術式による仕上がりの違いについて、中でも一般的にはあまり取り上げられることが少ない違いを主に取り上げます。
術式ごとの基本的な長所・短所、手術の流れ等については乳房切除(胸オペ)についてを、乳房切除術のリスク・合併症については胸オペのリスクと合併症に詳細を記載していますのでそちらも参考にしてください。
乳腺摘出術(U字切開)
乳輪の半周切開から乳腺を摘出する方法です。
もともと乳腺があまり大きくない日本人では最も多く行われている術式です。

赤線:傷の位置
大したことではないのですが・・・U字切開と表現されることが多いですが、図のように乳輪縁に沿って約半周切開しますので、U字とは少し違います。
メリット
傷が最も小さいことが最大のメリットなのですが、他にもあります。
乳輪の形が自然
乳輪と肌色の皮膚との境目はほとんどの場合がわずかなグラデーションがあります。
乳輪の茶色い部分と胸の皮膚の肌色の部分の境界線は線で引かれたようにはっきりとしていないのです。
(少数ですが線で引かれたようにはっきりと分かれている場合もあります)
乳腺摘出術では皮膚を切り取りませんので、このグラデーションが残ります。
従って乳輪が最も自然な形になります。
デメリット
デメリットとして皮膚が余っている場合は後日修正が必要になるのですが、その他には乳輪の位置がやや内側になる場合があるということです。

FTM術後

解剖学的男性
写真を比較していただくと分かりやすいのですが、上がFTMの術後、下が解剖学的男性の写真です。
FTMの乳房切除後は解剖学的男性の乳輪位置と比べるとやや内寄りになるケースがあります。
これは乳腺の発達方向によっては胸の外側の皮膚が内側より伸びてしまう場合があるからだと考えています。
乳腺摘出術では乳輪の位置は操作できません。
手術の目的は乳腺を除去して平らな胸を形成することで間違いではないのですが、正確には男性的な胸を形成することだと考えています。
乳輪の位置に関しては今後も術式の工夫が必要だと考えています。
乳房切除+乳輪乳頭移植
乳腺の摘出と余った皮膚の切除を同時に行う術式です。
乳輪乳頭を移動させる方法が2つありますので、それぞれについて記載します。
有茎乳輪乳頭移植
乳輪乳頭に血液の流れを保ったまま新しい位置に移動させます。
皮膚の切除ラインは以下のようにいくつかバリエーションがあります。


メリット
余剰皮膚の切除もできるというメリットはありますが、他にもあります。
① 乳輪の位置を適切な位置に移動しやすい
もちろんある程度の制限はありますが、上述しました乳腺摘出術よりは乳輪の位置をコントロールできます。
② 乳輪縮小も同時にできる
乳輪をグルッと1周切開しますので、余分な乳輪を切除すれば少し小さめの乳輪に形成することも可能です。
デメリット
デメリットとして傷が大きいことのほかに
① 乳輪の自然なグラデーションが失われる
これは乳輪をグルッと1周切開すると乳輪と肌色の皮膚のグラデーションの部分が無くなることによって生じます。
やや人工的な感じがどうしても残ってしまいます。
② 少し膨らみが残る
この術式は乳輪の血流を保ったまま移動させます。
理論的には静脈と動脈が1本ずつあれば血流は保てるのですが、技術的に難しいので、乳輪の裏にやや厚めの組織を残すことで血流を保ちます。
通常は切除する組織をあえて残すことになりますので、乳輪とその周囲に軽度の膨らみが残ります。
軽度の膨らみですので、もともと皮下脂肪が多いタイプの方はそこまで気になりませんが、痩せ型の方はやや気になります。
遊離乳輪乳頭移植
乳輪乳頭を一度切り離して新しい場所に移動させる方法です。
皮膚移植と同じ要領で、乳輪乳頭を新しい場所にくっつけるというイメージです。
メリット
上述の有茎移植と同様に「余った皮膚を切除できる」「乳輪の位置を適切な位置にできる」「乳輪縮小も同時にできる」というメリットがあります。
更にこの術式では血流を保つために余剰組織を残す必要がありませんので、上述の有茎移植で可能性のあった「少し膨らみが残る」ことはほとんどありません。
デメリット
デメリットとしてはやはり乳輪の自然なグラデーションが失われることがあります。
そのほかに、乳輪乳頭の感覚神経は完全に切れてしまいますので、乳輪乳頭の感覚は全く変わります。
いわゆるただの胸の皮膚と同じ感覚になります。
まとめ
傷の大きさ以外にも各術式にそれぞれ仕上がりに違いがあります。
術式選択の参考にしていただければと思います。
最後に、今回のテーマとは少し違うのですが、乳房切除後の乳がんの発生について少し触れておきます。
FTMの乳房切除術は男性的な胸を形成する手術です。
実際は乳腺がわずかに残っています。
これは乳腺を全て完全に摘出しようとすると変形を残したり、術後合併症が増えたりするからです。
乳房切除後に乳がんを発症したケースも報告されており、乳房切除術によって乳がんの可能性が無くなる訳ではありません。
現実的には定期的な乳がん検診を受けることは難しいと思いますので、胸にしこりを見つけた時には放置せずに一度医療機関を受診されてください。