実際に手術を受けるまで手術の流れや術後経過が分からない方がほとんどだと思います。
ここでは当院で行っている女性化乳房手術を例として詳細をお伝えします。
目次
女性化乳房手術当日
手術当日の流れ
9:00 来院・術前診察
初診時に手術方法、リスク等についてお話していますが、手術前に再度ご質問などが無いか確認します。
9:05 着替え、準備
術前診察が終わりましたら、手術用のガウンに着替えて頂きます。
9:10 麻酔導入
腕から点滴の注射をします。血圧、心電図などのモニターをチェックし、麻酔を開始します。
点滴から麻酔の薬が入り、あっという間に眠ってしまいます。次に目が覚めた時には手術は終了しています。
9:20 手術開始
麻酔で完全に眠った状態になりましたら手術を開始します。
切開は乳輪周囲半周と脇に近い腕の付け根を5mm程切開します。
乳輪周囲の切開は傷跡を目立ちにくくするために、乳輪の形に沿って切開します。
乳輪の形が滑らかな円であれば滑らかな弧を描くように切開しますが、通常はやや不整形ですので、その形に合わせて切開します。(下図参照)

乳輪の形はやや不整形

乳輪縁切開のデザイン
腕の付け根の切開はシワに沿って切開します。
乳腺切除と脂肪吸引をこの2カ所の切開から行います。
最後にドレーンという細い管を乳腺切除部に挿入して傷を縫合します。
ドレーンとは、術後のジワっとした出血を袋に吸い出すための装置です。
12:20 手術終了、麻酔から覚める
手術終了から5~10分で麻酔から覚めます。
12:30 回復室に移動
麻酔から覚めたとはいえ、まだ寝ぼけたような状態ですので、隣の回復室に移動していただき、2時間ほど休憩します。
2時間も休憩すると普通に歩いて退院できるようになります。
15:00 退院
手術終了から約6時間(通常午後6~7時ごろ)から食事が可能になります。
手術当日は食事やトイレなど必要最低限の行動に留めていただき、あとはゆっくり安静にしてください。
術後の注意事項
術後最も気を付けることは再出血です。
再出血を防ぐために、以下の3点に注意してください。キーワードは「血圧を上げない」です。
① できるだけ安静にする
痛みがあまりない場合も外出は控え、ソファーやベッドでゆっくり過ごすようにしてください。
動き回ってしまうと、心拍数が増え、血圧が上がってしまいます。
② お酒は飲まない
手術当日の夜は絶対に飲んではいけません。
お酒も心拍数や血圧の安定に悪影響を与えます。手術結果に直接関わりますので、グッと我慢しましょう。
③ 痛みがあるときは痛み止めを使用する
痛みを我慢すると血圧が上がります。痛いときは無理に我慢せずに痛み止めを使用してください。
上記3つは非常に大切ですので、必ず守るようにしてください。
術後の痛みについて
術後の痛みは「強い筋肉痛」という表現が最もあてはまります。
通常は痛み止めの内服薬で十分対応できる程度の痛みです。
痛みの程度は個人差があるのですが、手術当日から翌日までの間に痛み止めを1~2回使用する方が最も多いです。痛み止めを全く使用しない方も珍しくありません。
痛みのピークは手術当日の夜から翌日の午前中までです。それ以降は少しずつ良くなってきます。
手術翌日から術後1週間までの経過と過ごし方
翌日検診
術後の状態チェックとドレーンを抜きます。
ドレーンを抜くときは引っ張られる感覚はありますが、強い痛みはありません。
処置は5分位で終了します。
処置の後、自宅でのケアについてご説明します。
自宅でのケア
自宅でのケアは「傷にテープを貼る」と「胸にバンドを巻く」の2点です。
シャワーは傷にテープを貼ったまま浴びてください。
お腹まででしたら、湯船のお湯につかることも可能です。
また、術後1か月間、胸にバンド(サポーターのようなもの)を巻きます。
このバンドは手術部位の皮膚がよれたり、変なシワが入ってしまったりしないようにするためのものです。
当院では日中のみバンドを巻いていただき、夜間は外していただいています。
運動の制限
術後特に問題がなければ、2~3日目から軽いウォーキングやジョギングが可能になります。あまりハードでない筋トレも可能です。
コンタクトスポーツなど激しい接触があるスポーツは術後3週間からになります。
術後1週間から1か月までの経過と過ごし方
経過
≪抜糸≫
術後1週間~10日の時点で抜糸します。
抜糸は5分位で終了します。抜糸は痛いものと思っている方がいらっしゃいますが、痛みはほとんどありません。「あれ?痛くないのですね!」と抜糸が終わった後によく言われます。
≪内出血≫
内出血は術後1週間頃から次第に紫から黄色に色が変わってきます。色が黄色に変わったら、あと1週間ほどで完全に消えます。
≪腫れ≫
術後1週間ではまだ腫れが残っています。
この後ゆっくりと腫れがひいてきます。痩せ型の方で約1か月、それ以外の方は約3か月かけて腫れがひいてきます。
過ごし方
抜糸が終わる頃にはだいぶ痛みも軽くなっています。
徐々に元通りの生活に戻していってください。
この頃になると軽い運動を行った方が全身の血行がよくなるため、かえって回復が早くなります。
引き続き、日中の胸のバンドは継続してください。
術後1か月以降の経過について
この時点では運動や生活の制限は全くありません。
しかし、まだ以下のような症状が残っています。
≪腫れ≫
早い方は術後1か月頃には腫れがほぼ無くなっています。しかし、通常は1か月の時点ではまだ軽度の腫れが残っています。
見た目の結果は術後3か月頃まで待つ必要があります。
≪硬さ≫
術後1か月頃は皮膚が一番硬くなります。
これは皮下脂肪が一時的に硬くなることによる症状です。約半年から1年かけて徐々に柔らかくなっていきます。
≪痛み≫
1か月の時点でもまだ「たまにチクチクする」「動かすと少しつっぱるような感じがする」といった症状があります。
これは、1か月の時点では傷が治ったように見えているのですが、皮膚の下では瘢痕と呼ばれる硬い線維状の組織がたくさんできていますので、腕を大きく動かすと胸のつっぱり感がでます。
また、手術によって細かい神経(皮膚の感覚に関する神経)がダメージを受けていますので、違和感やチクチク、ピリピリといった症状がでます。
これらの症状は数か月~1年位かけてゆっくりと改善してきますので、あせらずに待つことが大切です。
まとめ
以上が当院で行っている全身麻酔による女性化乳房手術の当日の流れと術後経過です。
見た目としての手術結果は、術後3か月がおおよその目安となりますが、本当の意味で様々な症状が落ち着くのは術後1年位かかります。
生活の制限は術後3日間が最も制限されますが、その後徐々に解除され、3週間もすればほぼ制限が無い状態になります。