手術にリスクはつきものです。
もちろん過度に心配する必要はありませんが、どのようなリスクがあるのか知っておくことは大切です。
今回は女性化乳房手術に関するリスク・合併症に関してお伝えします。
目次
血腫(けっしゅ)
血腫とは再出血によって手術部位に血液が溜まることです。
症状
通常は術後に片方の胸のみが膨らみます。
軽度の場合は少し水が貯まっている位の膨らみで、痛みも強くないのですが、大きい血腫になると皮膚がパンパンに張って、強い痛みを伴います。
大きい血腫は手術後6時間以内に起こることがほとんどですので、一晩過ぎれば大きい血腫が生じることはまずありません。
治療
軽度の血腫は自然吸収を待つか、血腫が溶けてきたころ(術後7~10日頃)に注射器で吸引します。
大きな血腫は早急に処置をする必要がありますので、症状を認めたら止血・血腫除去の緊急処置を行います。
当院の統計では緊急処置が必要になる血腫の発生頻度は1%未満でした。
予防
まず術後12時間は不必要に出歩いたりせず、安静にすることが大切です。
また、高血圧がある方は高血圧の治療を行って血圧が安定してから手術を受けた方が安全です。
過去に血が止まりにくかった経験がある方や、血が止まりにくくなる薬(バイアスピリン、ワーファリン等)を飲んでいる方は診察時に必ず申告してください。
乳輪の血流不全
乳輪は手術によって一時的に血流(血のめぐり)が悪くなりますので、それに伴う症状が出やすくなります。
症状
最も多い症状が、乳輪の切開部位がジュクジュクして治ってくる症状です。
その他には乳輪・乳頭に黒っぽいカサブタができることもあります。
リスク
リスクとしては喫煙があげられます。
タバコは皮膚の血流を悪くしますので、傷の治りが悪くなります。
手術前後2週間の禁煙をお勧めします。
皮膚のたるみ
症状
乳腺摘出後に胸の皮膚のだぶつきが残ることです。
乳腺が無くなることで皮膚も縮んでくるのですが、それでも追い付かない場合に起こります。
ただし、以下のリスク要因に全て当てはまる場合以外は女性化乳房手術ではほとんど生じないと考えて良いです。
リスク
乳房が大きい
乳房が大きいとそれを包む皮膚面積も大きくなりますので、乳腺摘出後に皮膚が余りやすくなります。
目安としては乳頭が下向きになるような乳房の大きさと下垂がある場合はたるみが残るリスクとなります。
年齢
術後にどれだけ皮膚が縮むかは年齢による違いも大きいです。
当然年齢が若い方が皮膚の弾力性がありますので、術後の皮膚の収縮も期待できます。
一方、年齢が高くなると(目安として40代以降)どうしても皮膚の収縮が悪くなります。
ただし、術前から下垂がある場合を除き、皮膚が垂れ下がるようになることはまずありません。
肥満
胸の皮膚は重力によって下へ引っ張られています。
皮下脂肪が多いと皮膚の重さが増しますので、下垂の原因となります。
皮下脂肪が多い場合は脂肪吸引も行うのですが、胸だけ極端に痩せさせるわけにはいかないので、限界はあります。
※時々「脂肪吸引すると皮膚がたるむのではないか?」とご質問をいただきます。
しかし、脂肪と皮膚の間をしっかりと吸引する浅層脂肪吸引は皮膚を収縮させる作用がありますので、逆に脂肪吸引はたるみ予防に有効です。
その他
傷あと
乳輪半周切開の傷跡は基本的にあまり目立ちません。
術後数か月もすればよく見れば傷跡が分かる程度までになることがほとんどです。
ただし、傷跡周囲の乳輪の色が白く色が抜けることがあり、その場合はやや目立つ場合がありますが、白くなった場合でも手術の傷跡としては目立ちにくい方です。
しこり
術後1か月頃に手術部位を触るとしこりがあるように感じることがあります。
これは皮下脂肪が手術の影響で一時的に硬くなることによるものです。
術後半年~1年もすればこの症状はほとんど無くなるのですが、稀に皮下脂肪の一部が石灰化してわずかなしこりが残ることがあります。
胸の皮膚感覚異常
術後胸の感覚が鈍くなったり違和感が生じたりします。
この症状は大なり小なりほとんどの方に生じています。
これは手術によって細かい神経(感覚の神経)がダメージを受けたことによるものです。
術後半年~1年位かけてゆっくりと回復してきます。
乳腺が非常に大きかった場合は、1年経ってもやや鈍い感じが残る場合もあるのですが、生活に特に使用は無い範囲です。
左右差
人間の体は必ず右と左では若干の違いがあります。
乳腺の大きさ、皮膚の余り具合、乳輪の大きさ、骨格など・・・
そういった元々の条件による若干の左右差(ある意味自然な状態)は術後も残ります。
胸の凹み
今までは乳腺や脂肪に隠されて本来の胸の形が見えていなかった場合、手術によって本来の胸の形が現れてくることがあります。
時々みられる症状は腕を上げた時に少し胸のくぼみが出るという症状です。
これは腕を上げると大胸筋(胸の筋肉)が伸展し、形が変わりますので痩せ型の方にはよく認められる生理的な症状です。
女性化乳房手術によって余分な乳腺が無くなることで筋肉の動き・変形が皮膚表面から分かりやすくなるため、術後このような症状を認めることがあります。
※平常時の凹みに関しては乳腺を除去した周囲の脂肪吸引や、凹みが強い部分に脂肪を移動させる等で予防しますので、平常時の凹みはまず生じません。
再発
手術によってしっかりと乳腺を除去すれば再発の可能性は極めて低いです。
しかし、乳腺を残したまま脂肪吸引だけで治療した場合や乳腺の除去が不十分であった場合は再発の可能性があります。
これは、乳腺が残存していると加齢や肥満、薬によるホルモンバランス変化の影響を今後も受けやすくなるからです。
※乳腺の発達に関する記事はこちらも参照にしてください。
まとめ
手術のリスクをゼロにすることは残念ながら難しいのですが、いずれのリスクも一つ一つ丁寧に原因を除去していけば過度に心配する必要はありません。
大切なことは避けられるリスクは極力避け、合併症が生じたときは、まだ芽が出てきて間もないころに速やかに刈り取っていくことが大切です。