手術で用いられる麻酔方法は多数あります。今回は一般的に女性化乳房手術で行われている麻酔方法と当院で行っている麻酔についてお伝えします。
目次
局所麻酔(浸潤麻酔)
傷を縫うとき、ほくろやイボなどの切除術、歯科治療など日常的に最もよく用いられている麻酔方法です。
治療部位に直接麻酔薬を注射し、痛みを感じない状態になります。
メリット
- 小範囲の麻酔に最適
- 適正使用の場合、全身への影響がほとんどない
- コストが安い
女性化乳房の治療においては乳腺の大きさが約3cm以下の場合は局所麻酔で行います。
※局所麻酔の女性化乳房手術に関する詳細はこちらも参考にしてください。⇒【女性化乳房手術の実際・局所麻酔編】
デメリット
- 手術中に意識がある
- 広範囲手術の麻酔には向かない
局所麻酔で最も気を付けなければならないことは「局所麻酔中毒」です。
局所麻酔中毒は「血管の中に麻酔薬を注入」もしくは「麻酔の過量投与」で起こりやすくなります。
局所麻酔中毒は意識消失、最悪の場合心停止(心臓が止まる)を引き起こしますので危険な合併症の一つです。
女性化乳房手術である程度乳腺の大きさがある場合は広範囲に麻酔を注入する必要がありますので、局所麻酔薬の使用量上限ギリギリになります。
更に、麻酔の効き方にはある程度個人差がありますので、やや麻酔が効きにくいもしくは早く麻酔が切れてしまう場合は麻酔の追加投与をしますので、局所麻酔の使用上限を超えてしまう可能性が高くなります。
その結果、重篤な合併症である麻酔中毒を引き起こす可能性があります。
「局所麻酔=安全」と考えられがちですが、それは局所麻酔の良い適応である治療に限った話です。
従って、当院では乳腺の大きさが直径約3cm以下の場合に限り局所麻酔での手術を行っています。
全身麻酔
麻酔ガスで完全に眠った状態で手術をする方法です。
メリット
- 完全に眠ることができる
- 手術中に痛みを感じることが無い
全身麻酔の場合は「いつの間にか眠って、起きたら手術が終わっていた」と多くの方が感じているように、手術中の不安やストレスが無いことが最大のメリットです。
また、術者の視点からは、患者さんから「痛い」と言われることが100%ありませんので、手術が非常にやり易いです。
デメリット
- 術後に吐き気やのどの痛みが出ることがある
- 全身麻酔に対応できる設備が必要になる
- コストがかかる
全身麻酔はその特性上、専用の麻酔器をはじめ、多くの機器、薬品をあらゆる状況に備えて準備する必要があります。
万全の準備をしているからこそ安全性が高まるとも言えます。
全身麻酔=危険というイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれませんが、全身麻酔による心停止の確率は0.000041%、局所麻酔の場合は0.00006%であり、局所麻酔のほうが確立が高いという統計も見逃せません。
当院の麻酔
上記のように麻酔方法によってそれぞれメリット・デメリットがあります。
当院では
局所麻酔:直径3cm以下の乳腺摘出術
全身麻酔:直径3cmを超える乳腺摘出術および脂肪吸引を行う場合
という具合に麻酔方法を使い分けています。
更に安全な日帰り全身麻酔のために以下のことを行っています。
回復が速い麻酔薬の使用
麻酔薬の進歩により、現在は麻酔の影響がすぐに切れる麻酔薬が使用できるようになりました。
【女性化乳房手術の実際~全身麻酔編~】でも記載していますが、術後2~3時間で普通に歩いて退院できます。
ラリンゲルマスクの使用
一昔前までは、全身麻酔のためには筋弛緩薬という呼吸を停止させる薬を使用し、口から気管までチューブを入れ、人工呼吸器を使用する必要がありました。
しかし、現在では気管まで入れるチューブの代わりにラリンゲルマスクという喉の奥に入れるマスクを使用する麻酔法が確立されました。
これにより筋弛緩薬を使用する必要がなくなり、麻酔中も患者さん自身が呼吸をしていますので人工呼吸器を使用する必要がなくなりました。
筋弛緩薬を使用していませんので、術後に呼吸が止まってしまうというトラブルの心配はまずありませんので、日帰り全身麻酔が安心して行えるようになりました。
徹底した術中モニタリング
呼吸で吐き出される二酸化炭素をモニタリングしておけば呼吸の有無はおろか、呼吸数、呼吸の深さなどをリアルタイムで確認できます。
十数秒以上呼吸が停止すればすぐにアラームが鳴ります。十数秒の呼吸停止でしたら、体の酸素濃度が低下するまでまだ時間的余裕があります。
その他心電図、血圧、酸素濃度などもモニタリングし、小児の麻酔も可能な設備を整えています。
まとめ
絶対安全な麻酔は残念ながらまだ世の中にありません。
患者さんの状態と手術内容に適した麻酔法を適切に選択することこそ安全な麻酔であると考えています。