「気が付いたら胸が大きくなってきた」「乳輪が膨らんでいる」「しこりができている」
これは小学校高学年から高校生までの男子によく見られる乳腺の肥大、「思春期女性化乳房」の可能性が非常に高いです。
ここでは思春期に見られる女性化乳房について詳しく解説します。
目次
思春期女性化乳房とは
症状
小学校高学年ごろから高校生の間までに乳腺が発達し、胸・乳輪の膨らみを認めます。
胸の膨らみの程度は様々です。
両方の乳輪がプクッと膨らみ、さわるとやや硬いしこりを触れるというのが典型的なケースですが、いわゆる女性の乳房のような膨らみを認めるものまで幅があります。
思春期女性化乳房の75%が両側に認められますが、左右差を認める場合や片側だけという場合もあります。
見た目以外の症状としては、押すと痛みを伴ったり、運動時に痛みを伴ったりすることがあります。
頻度
10歳から16歳の男子の約38%に思春期女性化乳房を認めます。
特に14歳頃が発症のピークで、14歳男子に限ると約65%に思春期女性化乳房を認めますので、半分以上の男子が一度は経験する症状と言えます。
思春期女性化乳房の原因は?
思春期女性化乳房の原因は、3つ考えられます。
成長期に伴うホルモンバランスの一時的な変化
女性だけでなく、男性も女性ホルモンを体内で産生しています。
成長期になると、男性ホルモン(アンドロゲン)と女性ホルモン(エストロゲン)のバランスが一時的に変化し、相対的に女性ホルモン優位な状況になる場合があります。
女性ホルモン(エストロゲン)は乳腺を発達させますので、女性ホルモンが強くなると男性でも乳腺が発達してしまいます。
乳腺組織がホルモンに反応しやすくなる
ホルモンバランスの崩れが認められていない場合でも乳腺が発達してしまうことがあります。
これは乳腺が女性ホルモン(エストロゲン)に反応しやすくなるからと考えられています。
従って乳腺がホルモンに反応しやすい状態になると、女性ホルモンの量が増えていない場合でも乳腺が発達してしまいます。
脂肪組織で女性ホルモンが産生される
成人の女性化乳房を診察していてよくある経過は「小さいころ太っており、思春期に胸の膨らみが目立つようになった。大人になって痩せたが胸だけ残ってしまった」というものです。
これは脂肪組織で女性ホルモンが産生されやすくなることが原因です。
男性は男性ホルモンの一種、テストステロンを原料に女性ホルモンであるエストロゲンを作っています。
この時、アロマターゼという酵素が男性ホルモンを女性ホルモンに変えているのですが、このアロマターゼは脂肪組織に存在します。
すなわち、太っている(=脂肪が多い)と女性ホルモンが作られやすくなり、更に思春期のホルモンバランスの崩れが重なった結果として乳腺の発達につながります。
思春期女性化乳房の対処法
思春期女性化乳房は経過観察して良い場合と、治療を考えていく段階があります。
経過観察
思春期女性化乳房はホルモンバランスが正常化すると自然に改善することが多いです。自然に改善する時期は胸が膨らんでから2~3年以内です。
よって、思春期女性化乳房の基本的なスタンスはまず経過観察で問題ありません。
しかし以下の3つのケースのいずれかにあてはまる場合は積極的な治療を考える必要があります。
・3年以上経っても胸の膨らみが残っている
・乳輪の大きさをはるかに超えて膨らんでいる
・日常生活に支障がある
治療法
治療は抗がん剤などの「薬」による方法と、乳腺を切除する「手術」とがあります。
薬の投与は全身への副作用、治療終了後に再発する可能性などから第一選択にするべきではないと考えています。
一方、乳腺切除は全身への副作用も少なく、きちんと乳腺を切除すれば再発は極めて少ないことから、女性化乳房治療の第一選択は手術です。
手術に関しては「女性化乳房手術の実際~全身麻酔編~」「女性化乳房手術の実際~局所麻酔編~」でその詳細を記載していますので、参考にしてください。
手術の適応
3年以上経っても胸の膨らみが残っている場合
3年以上経っても胸の膨らみが残っているということは、ホルモンバランスが正常化したのにもかかわらず、大きくなった乳腺が小さくならなかったということです。
この場合は、これ以上待っても小さくなる可能性は極めて低いので、手術を考えても良い状況です。
乳輪の大きさをはるかに超えて膨らんでいる
2~3年すると自然に治るとはいえ、ある程度大きくなってしまった乳腺がほとんど消えて無くなってしまうことを期待するのは医学的に無理があります。
私が診察してきた患者さん達の中にも、他院で「思春期に起こる一時的なものだから待ってください」と説明され、何年も待ったが結局変わらなかったということで来院される方がいらっしゃいます。
診察してみると乳腺の直径が5~6cm以上ある場合がほとんどです。
乳輪の大きさをはるかに超える場合(直径4~5cm以上)に関しては自然に治らないケースも多いと予想されますので、治療を積極的に考える目安の一つです。
日常生活に支障がある
思春期女性化乳房を治療する重要な意義はここにあります。
「痛み」という症状と「恥ずかしさ、自信が持てない」という精神的な影響が著しく生活の支障になる場合があります。
痛みに関しては強く押した時だけではなく、運動時に痛みを伴うことがありますので、その場合は学校の授業やクラブ活動などに支障をきたしてしまいます。
また、男性にとって「胸が膨らむ=おっぱいがある」ということは非常に深刻な問題です。(なかなか女性の方には理解していただけなのですが・・・)
海外の研究でも思春期女性化乳房が自尊心などの点から精神的に非常にネガティブな影響を与えているというデータが出ています。
私が治療してきた患者さんたちも「プールに入れない」「修学旅行でお風呂に入れない」「海に行けない」「夏にTシャツ1枚になれない」など深刻な悩みを抱えていました。
手術で症状が改善したことで非常に充実した生活を送れるようになったと聞くと、この治療の重要性を改めて認識します。
もちろん自然治癒する可能性があるので2~3年待つことも正しい選択ですし、二度と経験することがない貴重な10代の時間を無駄にしないため積極的に治療することも正しい選択です。
≪参考資料≫
ASPS Recommended Insurance Coverage Criteria: Gynecomastia Surgery
Psychosocial Impact of Adolescent Gynecomastia: A Prospective Case-Control Study