国内で乳房切除術を受ける場合、大学病院のような総合病院か当院のようなクリニックで行うか選択しなければなりません。
どちらも一長一短あり、どちらが良いということは一概には言えません。
それぞれのメリット・デメリットを解説しますので、選択の一助になればと思います。
病院のメリット・デメリット
入院施設と複数の診療科がありますので、それ故の長所と短所があります。
メリット
他科の医師が在籍
病院で手術を受ける最大のメリットです。
健康な方はまずお世話になることはないでしょうが、もともと糖尿病や心臓などに疾患を持っている方にとっては欠かせません。
例えば、形成外科医と内科医などが連携して診療にあたることができますので、治療の安全性が高まります。
入院手術
病院で手術を行う場合は、基本的に入院手術になります。
入院自体は一長一短ありますので、入院を希望される方にはメリットとなるでしょう。(逆に入院を希望されない方にはデメリットになります)
デメリット
プライバシーの確保が困難
最近は病院側もだいぶ配慮するようになっていますが、相部屋の問題、トイレやシャワーをはじめ、もともと性同一性障害を主に診療している訳ではありませんのでプライバシーの問題は避けては通れません。
スタッフが不慣れな場合がある
病院は非常に多くのスタッフで運営されています。
性同一性障害の手術そのものに精通していないスタッフも中には必ずいます。
費用がかかる
治療費のほか、入院費が発生します。
術者が右と左で違う
これは大学病院という医療機関では避けて通れない問題です。
なぜなら、大学病院は高度な医療を提供するという使命とは別に、医師をはじめとした医療関係者の教育を行うという使命もあるのです。
実際の手術では外来の担当医(通常は指導医の立場)の他、研修医も手術に入ります。
もちろん指導医による指導の下ですが、右と左で違う医師が手術をすることが一般的です。
※ここでは手術を受ける患者さんの直接的なメリットにはなり得ないため、デメリットとして記載していますが、私自身も大学病院で育ててもらった医師の一人です。
クリニックのメリット・デメリット
少人数の医師とスタッフで運営されていますので、病院とは違った長所および短所があります。
メリット
日帰り手術
大学の先生方からは「入院施設がないだけだろ」と言われるかもしれませんが、決してそういうわけではありません。
もし仮に私が入院施設のある病院で勤務していても胸オペは積極的に日帰り手術で行っていると思います。
なぜなら
- 仕事や学校を休む期間を最小限にできる
- 早めに歩き始めることから血栓症などの合併症のリスクを下げる
- 術後に自分の空間でリラックスできる
などのメリットがあるからです。
術者が右と左で同じ
クリニックでは基本的に手術を実際にする医師は一人です。
医師の教育は行っていませんので、純粋に治療のみ行っています。
術者が一人で行うということは手術時間が単純に2倍になると思われますが、そうではありません。
例えば右の乳腺切除を行った後に左側を行う場合、左右の解剖的な特徴は似ているため、後から行う左側の手術は先に行った右側より早く終わります。
また、これが最も大切なのですが、一人の医師が両側の手術を行った方が左右差が少なく、安定した治療結果が得られやすくなります。
スタッフが慣れている
クリニックはスタッフも少数で運営しているところがほとんどです。
必然的にFTM手術、術後経過に触れる機会も増えますので、不慣れな人間がいる確率がグっと減ります。
ガイドライン逸脱例でも対応しやすい
大病院ではその立場上ガイドラインの順守が優先されます。
ガイドラインから逸脱しているケースやFTMと診断がつかないケース(FTX)の場合は、それぞれのケースに合わせた個別の対応が必要になりますが、柔軟な対応はどうしてもクリニックのように小回りが利く医療機関でないと難しいというのが現状です。
デメリット
他科の医師が不在
クリニックでは複数の医師が在籍していることはあまりありませんので、複数の診療科が連携して治療にあたることができません。
緊急時対応
手術当日の最も気を付けるべきトラブルは再出血です。
そして処置が必要になる再出血のほとんどが術後6時間以内におこります。
すなわち、クリニックが閉まった後に処置が必要になる場合がありますので、夜間も緊急時の対応ができることが欠かせません。
(ですので当院では術後24時間はいつでも連絡・対応可能な体制をとっています)
クリニックによっては診療時間外の対応を行っていないところがありますので、事前に確認が必要です。
まとめ
このように病院とクリニックのそれぞれのメリット、デメリットがあります。
よく比較してご自身の希望・考えに合った医療機関を受診してください。
最後に、病院・クリニックを選ぶ上で大切にしていただきたいことが1つだけあります。
それは担当医師との相性です。
あまり表だって語られることはありませんが、とても大切なことです。
相性の良し悪しが患者と医師との信頼関係に影響を与えますし、巡り巡って治療結果にまで影響を及ぼします。
短い診察時間の間ではなかなか相性の良し悪しまでは分かりづらいかと思いますが、「どうも相性が悪いな・・・」と感じたときは他の医療機関を受診することを考えてみることも大切です。
これから診察を受ける予定の方は「相性」という部分も意識してみてください。