アテンドはタイなど海外で手術を受ける際に、病院の紹介のみならず、航空券の手配、現地の宿泊先、通訳、場合によっては観光ガイドなどを行ういわば旅行代理店のような存在です。
スタッフはGID当事者であることもあれば、そうでないないこともあります。
私の立場は国内で乳腺切除術(胸オペ)を受けるべき7つの理由でもお伝えしたように、国内で手術を受けることを推奨していますが、様々な理由から海外で手術を受けることを選択される方もいらっしゃると思います。
今回はアテンドについての注意点や知っておいて頂きたいことについて記載しました。
アテンドは医療従事者ではない
当然ですが、アテンドは仲介業者ですので、医師や看護師などの医療従事者ではありませんし、医療機関の代理人でもありません。
実際に手術を受けた当事者であったり、多くの手術希望者を仲介した経験があったりしますので、いろいろなことを相談できるかもしれません。
しかし、医療に関するプロではありませんので、医療に関する知識には限界がありますし、間違った認識・知識を持ち合わせている場合があります。
既に手術を経験している当事者だとしても体験談を語ることはできますが、医療行為に関する本質的な部分については素人です。
体験談は非常に参考になる情報ではあるのですが、あくまで一例です。
傷の治り方、術後の痛み、治療結果は100人患者さんがいたら100通りあります。
あくまで参考にする程度に留めておいた方がよいです。
治療に関する疑問などは医師・看護師に直接聞くことで間違いを減らすことができます。
術後のフォロー体制が整っていない場合がある
手術には当然リスクが伴います。
リスクが比較的少ないと言える乳房切除術(胸オペ)でさえ、胸オペのリスクと合併症でお伝えしたように、ある程度のリスクは伴います。
ここで問題になるのが、もし合併症等のために渡航先で治療が完了せず、帰国後に医療機関を受診する必要が生じた場合です。
私は当然アテンドが国内の医療機関を紹介するものと思っていたのですが、必ずしもそうではないようです。
実際に当院で経験したケースを2つご紹介します。
ケース1 渡航先で抜糸が間に合わず、国内で抜糸が必要になった
乳房切除術をタイで行ったが、傷の治りが悪かったため滞在期間中に抜糸が出来なかったとのことでした。
手術を担当した医師からは日本で抜糸してもらうように伝えられたそうですが、渡航に携わったアテンドからは「日本での医療機関は紹介できないのでご自身で探すように」ということで放り出されてしまったとのことでした。
そこでご自身で病院を探したそうですが、最初に行った病院では特殊な縫合法(形成外科ではたまに行うpurse string suture という縫合法)で縫っているので抜糸できないと断られ、当院で抜糸することになりました。
ケース2 術後血腫(胸に血が溜まる)を形成
約2週間前にタイで乳房切除術を行い、術後に血腫を形成したため、滞在期間中に注射器で血液のたまりを抜き取る処置を行ったとのことです。
帰国後もまた溜まってきたのですが、やはりアテンドからは国内の病院の紹介は行っていないと言われ、ご自身で病院を探し当院を受診されました。
上記のケースはいずれも皆さんがよくご存知のタイで有名な総合病院と個人クリニックで行われたものです。
そして国内で手術を受けるよりも高額な費用を支払ったのにもかかわらず、十分なアフターフォローを受けられていないといった状況は非常に問題であると思われます。
アテンドに対する私見
ここからはあくまで私個人の考えです。批判めいた内容もありますが、ご容赦ください。
ボランティアでおこなっていない限り、アテンド業とは手数料ビジネスです。
手数料は紹介先の医療機関と依頼者から発生しています。
各アテンドの業務形態、契約内容にもよりますが、1回の仲介で数万~十数万の利益をアテンドが得ることになります。
私は個人的に手数料ビジネスを営む仲介業者に完全に依存するのは良くないと考えています。
彼らに手術に関する責任を最後まで全うさせるのは無理があります。
手術の結果に関して外科医は自然と責任をとろうとする意識が働きます。
もちろん、医師としての責任という側面もあります。
しかし、更に強い理由があります。
それは心血を注いで手術をした患者さんに対する思いが強くなるからです。
数時間も全神経を術野に集中した後は正直ぐったりするほど疲れます。
それだけ心血を注いだ患者さんですので、術後の結果もおざなりにできないのです。
とはいえ、良心的なアテンドであればアフターフォローまで責任を持とうとすると思われますし、外科医といえども術後の結果に責任を持たない者もいますが・・・。
先ほどご紹介したケースは稀で、ほとんどのアテンドがプロとして依頼者の信頼に応えるべく仕事をしていることと考えたいです。
しかし、このようなケースがあることと、実状も知っていただければと思います。