胸オペ・乳腺切除術について

FTMの外科的治療の一つ、胸オペとも呼ばれている乳房切除術についてお伝えします。

身体的変化が大きい治療ですので、ホルモン治療と並び生活の質を向上させる非常に大切な治療です。

 

胸オペの概要

手術の目的

乳房切除術は膨らんだ胸を平らで男性的な胸に戻すことです。

特に胸の膨らみは女性的な象徴としての側面があるため、その存在を望まない場合は非常に大きな生活の支障となり、QOL(クオリティーオブライフ、生活の質)を著しく損なうことになります。

乳房切除術は胸の形成術を経て、QOLの向上を目的とした治療であると考えています。

 

手術を受けられる年齢

乳腺の摘出という身体的変化も大きく、もとの状態に戻すことは不可能な治療ですので、原則は20歳以上の方が手術の対象となります。

しかし、精神科医による手術適応の診断と親権者の同意がある場合に限り18歳以上方も手術の対象となります。

 

ガイドラインとの兼ね合い

日本精神神経学会主導の「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」においては

第一段階:精神的サポート
第二段階:ホルモン療法と乳房切除術
第三段階:性器に関する手術

という手順を踏んで進めることを原則的に推奨しています。

ガイドラインに沿った進め方が原則ではあるのですが、現実的には「精神科受診が難しい」「精神的サポートを必要としていない」「戸籍変更までは考えていない」「性自認が中性(FTX)である」「乳房の存在のみが受け入れがたい」など様々な理由でガイドラインに沿ったステップを踏めないケースが多々あります。

このような場合、ガイドラインの順守に固執することは治療を希望される方のメリットにつながりませんので、個々の状況に応じて治療を行っていくことが大切だと考えています。

 

※ガイドライン自体は医療者に対する指針であり、治療を受ける方に対する規則ではありません。

 

手術法

 

手術法は乳房の大きさや下垂の程度、可能な手術回数などによって様々ありますが、大きくは「乳腺摘出術(U字切開)」か「乳房切除+乳輪乳頭移植」の2種類に分けられるといってよいでしょう。

 

乳腺摘出術

乳輪の外周に沿って半周切開し、乳腺の摘出を行う方法です。

皮下脂肪がある場合は脂肪吸引を併用します。

乳腺摘出

赤線:傷の位置

 

この手術のメリットは上の図のように傷跡が小さく、目立ちにくいことです。

一方、皮膚が余る可能性があり、余った皮膚はたるみやシワの原因になります。

 

一般的には乳房があまり大きくなく、下垂も軽度まで場合はこの方法が適応になるとされています。

しかし、皮膚のたるみが残存した場合は後日修正術を行うことが可能な方はまずこの方法で行うことをお勧めします。

下垂が強い場合でも1年位かけて皮膚がかなり収縮してくる場合もありますし、もともと太り気味の方は皮下脂肪と多少の胸の膨らみがあった方がかえって自然な場合があります。

 

乳房切除+乳輪乳頭移植

 

乳腺の摘出と余剰皮膚の切除を同時に行う方法です。

乳輪乳頭は移動させる必要がでますので、新しい場所に移植します。

乳房切除

赤線:傷の位置

この手術のメリットは皮膚の余りが予想される場合でも一度の手術で終了する可能性が高いことです。(後日小修整が必要になることはあります)

一方、上の図のように傷跡は大きく残りますし、移植した乳輪乳頭が壊死する可能性もあります。

また、傷跡の目立ちにくさには体質による個人差が非常にあります。
数年するとかなり目立たなくなる方から、いわゆる傷跡として目立つ場合までどうしても差が出てしまいます。

メリットとデメリットを十分に考えた上で治療を選択することが大切です。

 

※各術式による仕上がりの違いについては【胸オペの術式による仕上がりの違い】も参考にしてください。

 

治療の流れ

 

実際に治療を受ける場合の流れを当院の場合を例に説明します。

 

診察

予約の上、診察に来院してください。

診察では超音波検査を用いて乳腺の大きさ、皮下脂肪の厚さ、下垂の程度を計ります。

その後手術の方法、術後経過、リスク等について説明します。

後日手術を希望される場合は採血検査を行います。

 

手術当日(乳腺摘出術の場合)

9:00 来院・術前診察

手術前に再度ご質問などが無いか確認します。

 

9:05 着替え、準備

術前診察が終わりましたら、手術用のガウンに着替えて頂きます。

 

9:10 麻酔導入

腕から点滴をします。血圧、心電図などのモニターをチェックし、麻酔を開始します。

点滴から麻酔の薬が入り、あっという間に眠ってしまいます。次に目が覚めた時には手術は終了しています。

 

9:20 手術開始

麻酔で完全に眠った状態になりましたら手術を開始します。

乳腺を摘出し、必要な場合は脂肪吸引を行います。

最後にドレーンという細い管を乳腺切除部に挿入して傷を縫合します。

ドレーンとは、術後のジワっとした出血を袋に吸い出すための装置です。

 

また、切除した乳腺は組織検査に提出します。
乳がんの存在を見落とさないためにも、当院では必ず行っています。

 

14:00 手術終了、麻酔から覚める

手術終了から5~10分で麻酔から覚めます。

 

14:10 回復室に移動

麻酔から覚めたとはいえ、まだ寝ぼけたような状態ですので、隣の回復室に移動していただき、2時間ほど休憩します。

2時間も休憩すると普通に歩いて退院できるようになります。

 

16:30 退院

手術終了から約6時間(通常午後8時ごろ)で食事が可能になります。

手術当日は食事やトイレなど必要最低限の行動に留めていただき、あとはゆっくり安静にしてください。

 

手術当日に最も気を付けることは再出血です。
再出血を防ぐために、以下の3点に注意してください。

 

① できるだけ安静にする

痛みがあまりない場合も外出は控え、ソファーやベッドでゆっくり過ごすようにしてください。

動き回ってしまうと心拍数と血圧が上昇し、出血しやすくなります。

 

② お酒は飲まない

手術当日の夜は絶対に飲んではいけません。

お酒も心拍数や血圧の安定に悪影響を与えます。手術結果に直接関わりますので、グッと我慢しましょう。

 

③ 痛みがあるときは痛み止めを使用する

痛みを我慢すると血圧が上がります。痛いときは無理に我慢せずに痛み止めを使用してください。

 

上記3つは非常に大切ですので、必ず守るようにしてください。

 

術後の痛みについて

術後の痛みは「強い筋肉痛」という表現が最もあてはまります。

通常は痛み止めの内服薬で十分対応できる程度の痛みです。

痛みの程度は個人差があるのですが、手術当日から翌日までの間に痛み止めを2~3回使用する方が最も多いです。

痛みのピークは手術当日の夜から翌日の午前中までで、それ以降は少しずつ良くなってきます。

 

翌日検診

術後の状態チェックとドレーンを抜きます。

ドレーンを抜くときは引っ張られる感覚はありますが、強い痛みはありません。

処置は5分位で終了します。

処置の後、自宅でのケアについてご説明します。

 

自宅でのケアは「傷にテープを貼る」と「胸にバンドを巻く」の2点です。

シャワーは傷にテープを貼ったまま浴びることができます。お腹まででしたら、湯船のお湯につかることも可能です。

また、術後1か月間、胸にバンド(サポーターのようなもの)を巻きます。

このバンドは手術部位の皮膚がよれたり、変なシワが入ってしまったりしないようにするためのものです。

 

術後特に問題がなければ、2~3日目から軽いウォーキングやジョギングが可能になります。あまりハードでない筋トレも可能です。

激しい接触があるスポーツは術後3週間からになります。

 

抜糸

術後1週間~10日の時点で抜糸します。

抜糸は5分位で終了します。抜糸は痛いものと思っている方がいらっしゃいますが、痛みはほとんどありません。

 

内出血は術後1週間頃から次第に紫から黄色に色が変わってきます。色が黄色に変わったら、あと1週間ほどで完全に消えます。

 

腫れに関しては術後1週間の時点ではまだ残っています。

この後ゆっくりと腫れがひいてきますが、痩せ型の方で約1か月、それ以外の方は約3か月かけて腫れがひいてきます。

 

抜糸が終わる頃にはだいぶ痛みも軽くなっています。

徐々に元の生活に戻していってください。

この頃になると軽い運動を行った方が全身の血行がよくなるため、かえって回復が早くなります。

引き続き、日中の胸のバンドは継続してください。

 

1か月検診

遠方の方、多忙で時間がとれない等の方は行っていませんが、通常は術後1か月の時点で検診を行っています。

また、乳腺組織の組織検査の結果も1か月検診の時点でお伝えしています。

この時期はまだ以下のような症状が残っています。

 

≪腫れ≫

早い方は術後1か月頃には腫れがほぼ無くなっています。しかし、通常は1か月の時点ではまだ軽度の腫れが残っています。

見た目の結果は術後3か月頃まで待つ必要があります。

 

≪硬さ≫

術後1か月頃は皮膚が一番硬くなります。

これは皮下脂肪が一時的に硬くなることによる症状です。約半年から1年かけて徐々に柔らかくなっていきます。

 

≪痛み≫

1か月の時点でもまだ「たまにチクチクする」「動かすと少しつっぱるような感じがする」といった症状があります。

これは、1か月の時点では傷が治ったように見えているのですが、皮膚の下では瘢痕と呼ばれる硬い線維状の組織がたくさんできていますので、腕を大きく動かすと胸のつっぱり感がでます。

また、手術によって細かい神経(皮膚の感覚に関する神経)がダメージを受けていますので、違和感やチクチク、ピリピリといった症状がでます。

これらの症状は数か月~1年位かけてゆっくりと改善してきますので、あせらずに待つことが大切です。

 

≪皮膚のたるみ≫

もともと乳腺が大きかった方や皮膚の下垂があった方は、まだ皮膚が余った状態です。

術後数か月から1年かけてゆっくりと皮膚が縮んできます。

 

胸オペのリスクと合併症

 

極力ゼロにしたいのですが、どうしても手術にはリスクが伴います。

胸オペ特有のリスク・合併症に関して解説します。

 

血腫(けっしゅ)

再出血によって乳腺除去部分に血液がたまることです。

血腫は感染やしこりの原因になりますし、非常に大きな血腫は皮膚を圧迫して皮膚の血流が悪くなりますので、乳輪乳頭壊死など大きなトラブルにつながります。

症状

通常は片方の胸のみが膨らみます。

軽度の場合は少し水が貯まっている位の膨らみなのですが、大きい血腫になると胸が水風船のように膨らみ、強い痛みを伴います。

治療

軽度のものは自然吸収を待つか、血腫が溶けてきたころ(術後7~10日頃)に注射器で吸引します。

大きな血腫は早急に処置をしないとトラブルになりますので、止血・血腫除去の緊急処置が必要になります。

予防

まず術後12時間は不必要に出歩いたりしないで安静にすることが大切です。

また、高血圧がある方は高血圧の治療を行って血圧が安定してから手術を受けた方がより安全です。

過去に血が止まりにくかった経験がある方や、血が止まりにくくなる薬を飲んでいる方は診察時に必ず申告してください。

 

乳輪乳頭壊死

手術翌日頃から乳輪乳頭が次第に黒くなってきます。

リスク

①手術方法による違い

乳輪半周を切開する乳腺摘出術では、まず起こりません。

乳輪乳頭の移動を伴う手術方法や、乳輪周囲を360度グルっと切開する術式では起こる可能性があります。

②喫煙

タバコは皮膚の血の巡りを悪くし、壊死が高くなります。

特に乳輪乳頭壊死の可能性がある手術法を受ける場合は禁煙を徹底してください。

 

皮膚のたるみ

症状

乳腺摘出後に胸の皮膚のだぶつきが残ることです。

乳腺が無くなることで皮膚も縮んでくるのですが、それでも追い付かない場合に起こります。

リスク

①乳房が大きい

乳房が大きいとそれを包む皮膚面積も大きくなりますので、乳腺摘出後に皮膚が余りやすくなります。

②年齢

術後にどれだけ皮膚が縮むかは年齢による違いも大きいです。

当然年齢が若い方が皮膚の弾力性がありますので、術後の皮膚の収縮も期待できます。

一方、年齢が高くなるとどうしても皮膚の収縮が悪くなりますので、術後に皮膚が余りやすくなってきます。

同じような体型、乳腺の大きさの方でも30代以降の方と20歳前後の方とではどうしても仕上がりに差が出てしまいます。

③ナベシャツの使用

乳房を切除するまでは圧迫下着(ナベシャツ)を使用して日常生活を送っている方は多いのですが、実は手術という観点からはあまり良くないのです。

なぜなら乳房を下側に引き延ばすようにしてナベシャツで圧迫すると次第に皮膚が伸びてきてしまいます。

また、ナベシャツの使用歴が長いほど皮膚が伸ばされてくる傾向にあります。

たるみが残ったら

乳輪周囲もしくは胸の下側で余った皮膚を切除する方法が一般的です。

しかし、胸オペから約1年間は皮膚が収縮する期間です。
まだ術後1年経っていない場合はもう少し待ちましょう。

仮に1年後にたるみが残っていたとしても、少しでもたるみが少ない方が修正手術の傷跡が小さくて済みます。

 

傷跡

乳輪半周切開の傷跡は基本的にはあまり目立ちません。

ただし、傷跡周囲の乳輪の色が白く色が抜けることがあり、その場合はやや目立つ場合があります。
(白くなった場合でも手術の傷跡としては目立ちにくい方だと思います。)

余剰皮膚を切除した傷跡はいわゆる「皮膚を切って縫った」傷です。
この傷跡はどうしても個人差が出ます。

非常に薄くて細く、目立ちにくい傷跡になる場合から、やや盛り上がった目立ちやすい傷跡になる場合まで幅が出てしまいます。

基本は極力無駄な皮膚切除は避けることが大切だと考えています。

 

胸の皮膚感覚異常

術後胸の感覚が鈍くなったり違和感が生じたりします。
この症状は大なり小なりほとんどの方が術後経験しています。

胸の皮膚感覚は術後1年位かけてゆっくりと回復してきます。

1年経ってもやや鈍い感じが残る場合もあるのですが、生活に特に支障は無い範囲です。

 

左右差

人間の体は必ず右と左では違いがあります。

乳腺の大きさ、皮膚の余り具合、乳輪の大きさ、骨格など・・・

そういった元々の条件による若干の左右差は自然な範囲と言えるでしょう。

また、今までは乳腺に隠されて本来の胸の形が見えてなかった場合も、手術によって今までは気づかなかった本来の胸の形、(肋骨がやや出ている、少し胸が凹んでいるなど)が現れてくることがあります。

 

胸オペの麻酔について

 

胸オペの麻酔はほとんどの施設が全身麻酔(麻酔ガスで完全に眠った状態になる)です。

 

全身麻酔のメリット

  • 完全に眠ることができる
  • 手術中に痛みを感じることが無い

 

デメリット

  • 術後に吐き気やのどの痛みが出ることがある
  • 全身麻酔に対応できる設備が必要になる

 

全身麻酔は危険?

全身麻酔はその特性上、専用の麻酔器をはじめ、多くの機器、薬品をあらゆる状況に備えて準備する必要があります。

万全の準備をしているからこそ安全性が高まるとも言えます。

全身麻酔=危険というイメージを持っているかたもいらっしゃるかもしれませんが、全身麻酔による心停止の確率は0.000041%、局所麻酔の場合は0.00006%であり、局所麻酔のほうが確立が高いという統計も見逃せません。

時々「麻酔から覚めなくなることはありますか?」と質問を頂くことがあるのですが、麻酔から覚めなくなることはありません

 

安全な日帰り全身麻酔のための工夫

 

医学の進歩により全身麻酔自体の安全性が高くなりましたが、安全な日帰り全身麻酔のために様々な工夫がされています。

 

回復が速い麻酔薬の使用

麻酔薬の進歩により、現在は麻酔の影響がすぐに切れる麻酔薬が使用できるようになりました。

術後2~3時間で普通に歩いて退院できます。

 

ラリンゲルマスクの使用

一昔前までは、全身麻酔のためには筋弛緩薬という呼吸を停止させる薬を使用し、口から気管までチューブを入れ、人工呼吸器を使用する必要がありました。

しかし、現在では気管まで入れるチューブの代わりにラリンゲルマスクという喉の奥に入れるマスクを使用する麻酔法が確立されました。
これにより筋弛緩薬を使用する必要がなくなり、麻酔中も患者さん自身が呼吸をしていますので人工呼吸器を使用する必要がありません。

筋弛緩薬を使用していませんので、術後に呼吸が止まってしまうというトラブルの心配も無くなりましたので、日帰り全身麻酔の安全性が更に高まります。

 

徹底した術中モニタリング

呼吸で吐き出される二酸化炭素をモニタリングしておけば呼吸の有無はおろか、呼吸数、呼吸の深さなどをリアルタイムで確認できます。

十数秒以上呼吸が停止すればすぐにアラームが鳴りますので、トラブルを早期に発見できます。

その他心電図、血圧、酸素濃度なども随時モニタリングすることで、あらゆるトラブルを未然に防ぎます。

 

 

当院のFTM手術についてはこちらから

当院で施術した実例集をご覧になれます

実際にどのような感じになるのか想像することは難しいと思います。当院で施術した様々なケースについて解説していますので、参考にしてください。