乳房切除術(FTM胸オペ)の麻酔について

手術で用いられる麻酔方法は多数あります。今回は一般的に乳房切除術で行われている麻酔方法と当院で行っている麻酔についてお伝えします。
 

局所麻酔(浸潤麻酔)

傷を縫うとき、ほくろやイボなどの切除術、歯科治療など日常的に最もよく用いられている麻酔方法です。
治療部位に直接麻酔薬を注射し、痛みを感じない状態になります。

メリット

  • 小範囲の麻酔に最適
  • 適正使用の場合、全身への影響がほとんどない
  • コストが安い

デメリット

  • 手術中に意識がある
  • 広範囲手術の麻酔には向かない

注意点

局所麻酔の最も気を付けなければならないことは「局所麻酔中毒」です。
局所麻酔中毒は「血管の中に麻酔薬を注入」もしくは「麻酔の過量投与」で起こりやすくなります。

局所麻酔中毒は意識消失、最悪の場合心停止(心臓が止まる)を引き起こしますので危険な合併症の一つです。

特に乳房切除術の場合は広範囲に麻酔を注入する必要があるので、そもそも局所麻酔薬の使用量上限ギリギリになります。

さらに局所麻酔が効いている時間も1時間半~2時間程度ですので、乳房切除術の場合は麻酔の追加投与が必要になることがありますので、麻酔薬の使用量が必然的に増え、麻酔の過量投与になりやすいのです。

「局所麻酔=安全」と考えられがちですが、それは局所麻酔の良い適応である治療に限った話です。

 

静脈麻酔+硬膜外麻酔

静脈麻酔とは点滴から麻酔薬を投与し、浅く眠った状態になります。
また、硬膜外麻酔とは背中から細い管を入れて胸の感覚を低下させます。

静脈麻酔だけでは痛みは無くなりませんので、硬膜外麻酔を併用して手術を行います。

メリット

  • 静脈麻酔により眠った状態で手術を受けられる

デメリット

  • 硬膜外麻酔は時として効果が不十分になり得る
  • 硬膜外麻酔の合併症は入院が必要になる場合がある

注意点

静脈麻酔は点滴から投与するだけという簡便さのため、美容クリニックの日帰り手術でよく使用されています。

ただし、硬膜外麻酔など痛みを軽減する麻酔が不十分な場合、静脈麻酔で深く眠ってもらう必要が出ます。

しかし、静脈麻酔の投与量を増やすと呼吸が停止することがあります。

呼吸が停止しただけでしたら、人工的に呼吸を補助すればよいのですが、ここに落とし穴2つがあります。

① 呼吸停止のモニタリングが難しい
② 人工呼吸が速やかに行える体制が整っていないことがある

静脈麻酔の場合、通常は指先に体内の酸素濃度を測る装置をつけてモニタリングするのですが、酸素濃度低下のアラームが鳴るのは呼吸停止から数分たってからです。

実際に自分にモニターをつけて実験したのですが、息を止めてから3分近く過ぎ、「もう苦しくてやばい!」という状態になって初めてアラームが鳴りました。

つまり通常のモニタリングでは呼吸停止から酸素濃度の低下で危険領域に近づいて初めて気が付くということになります。

さらに、酸素濃度低下のアラームが鳴ってから速やかに人工呼吸などの措置が行われればよいのですが、人工呼吸や気道確保の準備されていないことや設備自体が無いという施設も決して珍しくはないのです。

静脈麻酔は簡便であるが故に落とし穴があることも十分に認識すべき麻酔の一つです。

 

全身麻酔

麻酔ガスで完全に眠った状態で手術をする方法です。

メリット

  • 完全に眠ることができる
  • 手術中に痛みを感じることが無い

デメリット

  • 術後に吐き気やのどの痛みが出ることがある
  • 全身麻酔に対応できる設備が必要になる
  • コストがかかる

注意点

全身麻酔はその特性上、専用の麻酔器をはじめ、多くの機器、薬品をあらゆる状況に備えて準備する必要があります。

万全の準備をしているからこそ安全性が高まるとも言えます。

全身麻酔=危険というイメージを持っているかたもいらっしゃるかもしれませんが、全身麻酔による心停止の確率は0.000041%、局所麻酔の場合は0.00006%であり、局所麻酔のほうが確立が高いという統計も見逃せません。

当院の麻酔

上記のように麻酔方法によってそれぞれメリット・デメリットがあります。

日帰り乳房切除術の麻酔として考えると局所麻酔は麻酔の使用量オーバーによる重大事故の可能性が高く、静脈麻酔+硬膜外麻酔は硬膜外麻酔という煩雑な麻酔を使用する割には中途半端な麻酔になる可能性があるなどのことより、全例全身麻酔で手術を行っています。

医療者の視点から見ると、全身麻酔は患者さんが痛みを訴えることが無いので外科医は手術に集中できることも大きなメリットです。

更に安全な日帰り全身麻酔のために当院では以下のことを行っています。

 

回復が速い麻酔薬の使用

麻酔薬の進歩により、現在は麻酔の影響がすぐに切れる麻酔薬が使用できるようになりました。

【乳房切除術の詳細】でも記載していますが、術後2~3時間で普通に歩いて退院できます。

 

ラリンゲルマスクの使用

一昔前までは、全身麻酔のためには筋弛緩薬という呼吸を停止させる薬を使用し、口から気管までチューブを入れ、人工呼吸器を使用する必要がありました。

しかし、現在では気管まで入れるチューブの代わりにラリンゲルマスクという喉の奥に入れるマスクを使用する麻酔法が確立されました。
これにより筋弛緩薬を使用する必要がなくなり、麻酔中も患者さん自身が呼吸をしていますので人工呼吸器を使用する必要がなくなりました。

筋弛緩薬を使用していませんので、術後に呼吸が止まってしまうというトラブルの心配はまずありませんので、日帰り全身麻酔が安心して行えるようになりました。

 

徹底した術中モニタリング

呼吸で吐き出される二酸化炭素をモニタリングしておけば呼吸の有無はおろか、呼吸数、呼吸の深さなどをリアルタイムで確認できます。

十数秒以上呼吸が停止すればすぐにアラームが鳴ります。十数秒の呼吸停止でしたら、体の酸素濃度が低下するまでまだ時間的余裕があります。

その他心電図、血圧、酸素濃度などもモニタリングし、小児の麻酔も可能な設備を整えています。

 

 

 

全身麻酔は安易で簡便な麻酔でないことは確かです。

しかし、十分な体制を準備して行うからこそ、日帰り乳房切除術においては最も確実で安全性が高い麻酔法であると確信しています。

良い麻酔を選択することは良い手術結果を得るための重要ポイントです。

当院で施術した実例集をご覧になれます

実際にどのような感じになるのか想像することは難しいと思います。当院で施術した様々なケースについて解説していますので、参考にしてください。